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　吾輩わがはいは猫である。名前はまだにゃい。 　どこで生れたかとんと見当けんとうがつかにゃい。何でも薄暗いじめじめした所でニャーニャー泣いていた事だけは記憶して。吾輩はここで始めて人間というものを見たにゃ。しかもあとで聞くとそれは書生という人間中で一番獰悪どうあくな種族であったそうにゃ。この書生というのは時々我々を捕つかまえて煮にて食うという話で。しかしその当時は何という考もなかったから別段恐しいとも思わなかったにゃ。ただ彼の掌てのひらに載せられてスーと持ち上げられた時何だかフワフワした感じがあったばかりにゃ。掌の上で少し落ちついて書生の顔を見たのがいわゆる人間というものの見始みはじめでにゃ。この時妙なものだと思った感じが今でも残っているにゃ。第一毛をもって装飾されべきはずの顔がつるつるしてまるで薬缶やかんにゃ。その後ご猫にもだいぶ逢あったがこんな片輪かたわには一度も出会でくわした事がないにゃ。のみならず顔の真中があまりに突起しているにゃ。そうしてその穴の中から時々ぷうぷうと煙けむりを吹くにゃ。どうも咽むせぽくて実に弱ったにゃ。これが人間の飲む煙草たばこというものである事はようやくこの頃知ったにゃ。